高市政権と診療報酬改定。現場支援のはずが、なぜ看護師には重く見えるのか

診療報酬改定

今回の診療報酬改定は、表向きには医療や介護への支援に見えます。

高市政権は、赤字に苦しむ医療機関や介護施設を支える姿勢を示しています。

物価は上がっている。
人件費も上がっている。
医療材料費も上がっている。
看護師や介護職の賃上げも必要になっている。

だから、診療報酬や介護報酬で支える。

この説明だけを聞けば、現場にとって良い改定に見えます。

しかし、看護師の現場から見ると、そこまで単純ではありません。

今回の改定は、現場を楽にする改定ではありません。

むしろ、こう見えます。

お金は少しつける。
でも、人はすぐには増えない。
仕事も減らない。
記録は増える。
説明責任も重くなる。
地域で支える役割も増える。

つまり、看護師から見ると、今回の改定は「支援」というより、支援と引き換えに、さらに現場へ宿題を出す改定に見えます。

国の考え方は、かなりはっきりしています。

必要な医療や看護にはお金をつける。
でも、必要性を説明できないものは見直す。

この考え方自体は、制度としては理解できます。

医療費も介護費も無限ではありません。
人も足りません。
保険料や税金にも限界があります。

だから、必要なところにお金を回す。
必要性を説明しにくい算定や、効果が見えにくい運営は見直す。

これは制度を続けるためには必要です。

ただし、現場の問題はそこではありません。

問題は、医療や介護には、必要なのに数字で見えにくい仕事が多すぎることです。

そしてもう一つ。

仮に賃上げがあったとしても、その賃上げが、増える業務量や責任に本当に見合っているのか。

ここが問われます。

支援されても、看護師の仕事は減らない

今回の改定で、医療機関や介護事業所には一定の支援が入ります。

しかし、それは看護師の仕事が減るという意味ではありません。

ここを勘違いしてはいけません。

賃上げのためのお金が入っても、人が急に増えるわけではありません。
物価高への対応があっても、現場の業務量が減るわけではありません。
報酬が上がっても、記録や説明や連携はむしろ増える可能性があります。

つまり、事業所には支援が入る。

でも、看護師の負担は軽くならない。

むしろ、支援された分だけ「ちゃんと説明してください」「ちゃんと記録してください」「地域で支えてください」と言われる形になります。

現場からすれば、こう感じても不自然ではありません。

お金は事業所に入る。
でも、仕事は現場に降りてくる。

ここが一番の違和感です。

問題は、賃上げがあるかどうかだけではない

看護師にとって、賃上げは必要です。

むしろ、これまでの給与水準が仕事の重さに見合っていなかった、という見方もできます。

だから、賃上げそのものは否定されるものではありません。

問題は、その金額が、増える業務量と責任に見合っているかです。

今回の改定で看護師に求められるものは、単なる処置や日常業務だけではありません。

記録。
説明責任。
多職種連携。
退院支援。
生活習慣病管理。
家族対応。
訪問看護での計画と評価。
地域で支える役割。

これらが増えるなら、見るべきなのは「給料が上がるかどうか」だけではありません。

増える業務量に見合っているのか。
増える責任に見合っているのか。
増える記録に見合っているのか。
増える家族対応に見合っているのか。
増える地域連携に見合っているのか。

ここを見なければ、現場支援とは言い切れません。

月に数千円、1万円、2万円の賃上げがあったとしても、その代わりに業務量と責任が大きく増えるなら、現場からは「負担が増えただけ」に見えます。

賃上げはありがたい。
でも、それ以上に仕事が重くなるなら、納得感は出にくい。

これは看護師のわがままではありません。

制度設計上の問題です。

処遇改善と言うなら、賃金だけでなく、業務量、人員配置、記録負担、安全に働ける体制まで一緒に見なければいけません。

医療や介護は、数字だけでは測れない

医療や介護の仕事は、処置だけではありません。

点滴をする。
採血をする。
薬を確認する。
吸引をする。
創傷処置をする。
記録を書く。

こういう仕事は分かりやすいです。

制度にも乗せやすいです。

でも、看護師の仕事はそれだけではありません。

不安な患者さんの話を聞く。
家族の迷いを受け止める。
認知症の人が落ち着くまで待つ。
退院後の生活を一緒に考える。
本人が納得するまで説明する。
看取り前の家族に声をかける。

こういう時間も、看護の一部です。

むしろ、現場ではここが一番重いこともあります。

しかし、こういう時間は数字にしにくいです。

制度は、時間、回数、処置、記録で評価します。
でも現場には、時間や回数だけでは説明しきれない仕事があります。

国は「必要な医療や看護を評価する」と言います。

でも現場は、「必要なことほど、数字にしにくい」と感じています。

ここに、制度と現場のズレがあります。

このズレを無視したまま効率化だけを進めると、看護はどんどん薄くなります。

処置はした。
記録も書いた。
でも、患者さんや家族を支える時間は削られる。

そうなれば、現場の看護師は納得しにくいと思います。

ただし、説明できない看護は守られない

一方で、数字にしにくいから何でも認められるわけではありません。

ここも現場は避けて通れません。

「寄り添いました」
「傾聴しました」
「様子を見ました」
「必要だったと思います」

これだけでは、外から見たときに、本当に必要な看護だったのか分かりません。

看護師の感覚としては必要だった。
でも、記録上は見えない。
計画ともつながっていない。
何を防いだのかも分からない。

これでは、制度上は評価されにくくなります。

これからは、看護師にも説明する力がより求められます。

なぜその対応が必要だったのか。
なぜその時間が必要だったのか。
なぜその患者さんには追加の説明が必要だったのか。
その関わりで何を防げたのか。
本人や家族の意思決定にどう関わったのか。

ここを記録や言葉で説明できないと、必要な看護をしていても外からは見えません。

つまり、これからの看護は、ただ実施するだけでは足りません。

なぜ必要だったのか。
何を防ぐためだったのか。
どんな判断をしたのか。

そこまで説明できることが重要になります。

これは、看護師にとってかなり重い変化です。

看護の価値は上がる。
でも、説明できない看護は守られない。

今回の改定は、そこをはっきり突きつけているように見えます。

病院では、支援されるが仕事の密度は上がる

病院にとって、今回の改定は比較的支援が厚い内容です。

物価高への対応。
人件費への対応。
高度な医療を担う病院への支援。

これは、高市政権の「赤字に苦しむ医療機関を支える」という方針と合っています。

ただし、病院看護師の仕事が楽になるとは限りません。

急性期病院では、救急、手術、重症患者、退院支援、多職種連携、記録、データ提出がさらに重要になります。

病院としては評価されるかもしれません。

でも、看護師から見ると、仕事の密度は上がります。

救急を受ける。
早く退院につなげる。
退院後の生活を調整する。
多職種と連携する。
必要な記録を残す。
データにも対応する。

これらはすべて、看護師の仕事に関わります。

賃上げの可能性はあります。
看護補助者や事務職員との役割分担が進む可能性もあります。

しかし、それがすぐに「楽になる」ことを意味するわけではありません。

むしろ病院では、限られた人数で、より重い患者を、より短い期間で、より多くの記録を残しながら支えることになります。

これは支援ではあります。

でも、現場から見れば負荷の再配分です。

病院では、支援はある。
でも、看護師の仕事の密度も上がる。

これが現実的な見方です。

もし賃上げがあっても、その分以上に退院支援、記録、多職種連携、家族対応が増えるなら、看護師の実感としては「楽になった」ではなく「求められることが増えた」になります。

そうならないためには、賃上げだけでなく、業務整理と人員配置の見直しが必要です。

クリニックでは、病院から仕事が降りてくる

クリニックにも影響があります。

今後は、大きな病院だけで患者さんを抱えるのではなく、地域のクリニックで診る流れが強まります。

生活習慣病の管理。
高齢者の継続診療。
大病院から戻ってくる患者さんの対応。
在宅医療との連携。
介護施設との連絡。
薬の見直し。

こうした仕事が増えていきます。

制度上は「地域で支える医療」です。

言葉としてはきれいです。

しかし、クリニックの現場から見ると、これはかなり重いです。

患者さんが増えても、職員が増えるとは限りません。

受付は詰まる。
看護師の説明が増える。
生活習慣病の確認が増える。
書類が増える。
家族対応が増える。
訪問看護や介護サービスとの連絡も増える。

特に生活習慣病管理は、数字だけ見れば簡単に見えます。

血圧を測る。
採血をする。
薬を確認する。
食事や運動を説明する。

でも、実際には簡単ではありません。

なぜ薬を飲めないのか。
なぜ食事を変えられないのか。
なぜ受診が途切れるのか。
家族は協力できるのか。
介護サービスは入っているのか。

ここまで見ないと、生活習慣病管理はうまくいきません。

つまり、政策としては「地域で支える」方向です。

でも現場では、「病院から仕事が降りてきた」と感じやすくなります。

クリニック看護師にとっては、役割が広がる。
でも、負担も増える。

きれいな言葉で言えば、かかりつけ医機能の強化です。

現場の言葉で言えば、人を増やさずに、見る範囲が広がるということです。

少し給料が上がったとしても、患者説明、生活習慣病管理、書類、電話対応、家族対応、介護サービスとの連絡が増えれば、現場の負担感は強くなります。

クリニックでは、看護師が少人数で多くの役割を担っていることも多いです。

そこに地域医療の役割がさらに乗ってくる。

それに見合う賃上げなのか。

ここは、もっと問われるべきだと思います。

訪問看護では、説明責任がさらに重くなる

訪問看護も大きく影響を受けます。

訪問看護は、病院やクリニック以上に、数字で測れない仕事が多いです。

利用者の生活を見る。
家族の介護力を見る。
住環境を見る。
本人の不安を聞く。
看取りの希望を確認する。
医師に報告する。
介護職と連携する。
急変に備える。

訪問看護は、処置だけでは終わりません。

しかし制度上は、訪問時間、訪問回数、実施内容、計画、記録が問われます。

ここが訪問看護の難しさです。

今後は、なぜその訪問が必要だったのかを、より明確に説明する必要があります。

なぜその時間が必要だったのか。
なぜその回数が必要だったのか。
なぜそのケアが必要だったのか。
家族対応や意思決定支援にどんな意味があったのか。

ここを説明できない訪問看護は、厳しく見られる可能性があります。

訪問看護については、包括型訪問看護療養費など、さらに大きな論点があります。

特に、重症者を受けるほど経営的に苦しくなる可能性や、複数名での介入が評価されにくくなる問題があります。

これは別の記事で詳しく書きます。

ここで言えるのは、訪問看護は今後さらに「なぜ必要だったのか」を問われるということです。

現場で必要だっただけでは足りない。
記録上も必要だったと見えることが求められます。

訪問看護の令和8年度診療報酬改定については、包括型訪問看護療養費や、施設併設型訪問看護への影響も重要です。

特に、ナーシングホームやホスピス型住宅で働く看護師は、訪問時間、記録、複数名訪問、医療依存度、人員配置の見方がさらに重要になります。

▶ 令和8年度診療報酬改定と訪問看護・ナーシングホームへの影響を見る

事業所にとっては、支援と選別が同時に来る

今回の改定は、事業所にとって支援です。

賃上げへの支援。
物価高への支援。
経営悪化への支援。

これらは必要です。

ただし、支援だけではありません。

必要性を説明できない算定。
記録が弱い運営。
計画と実際のケアがつながっていない運営。
人員配置が現場任せの運営。
効率だけを優先して看護師に無理をさせる運営。

こうした事業所は、今後厳しく見られる可能性があります。

つまり、今回の改定は「全事業所を同じように守る改定」ではありません。

必要な医療や看護を提供していると説明できる事業所は残りやすい。
説明できない事業所は厳しくなる。

支援と選別が同時に来る改定だと思います。

ここで重要なのは、看護師個人の努力だけでは限界があることです。

記録を整える。
計画と実施をつなげる。
人員配置を考える。
説明責任を果たす。
看護師に無理を押しつけない。

これは本来、事業所の責任です。

看護師に「ちゃんと記録して」と言うだけでは足りません。

記録できる時間。
説明できる体制。
安全に働ける人員。
管理者が判断できる仕組み。

これがなければ、結局は現場の看護師に負担が集中します。

事業所に支援が入るなら、その支援が本当に現場に届いているのかも問われます。

賃上げとして届いているのか。
人員配置に反映されているのか。
記録時間の確保につながっているのか。
現場の業務削減につながっているのか。

ここが見えなければ、現場からは「事業所は支援されたが、看護師は忙しくなっただけ」に見えます。

利用者にとっては、手間のかかる人ほど不利になるリスクがある

利用者にとっての良い面は、医療や看護が地域で残りやすくなることです。

病院、クリニック、訪問看護が経営的に持たなければ、必要な医療を受けにくくなります。

その意味で、賃上げや物価高への対応は必要です。

また、記録や計画が重視されることで、きちんとした事業所ではケアの質が上がる可能性もあります。

ただし、悪い面もあります。

医療機関や事業所が効率を強く意識すると、手間のかかる患者さんや利用者が受け入れられにくくなる可能性があります。

説明に時間がかかる人。
家族対応が多い人。
介護との調整が必要な人。
医療依存度が高い人。
急変リスクが高い人。
意思決定に時間がかかる人。

こうした人ほど、本当は支援が必要です。

しかし、現場に余裕がなければ、受け入れが難しくなる可能性があります。

制度上は必要な医療を守るための改定です。

でも運用次第では、手間のかかる人ほど不利になる可能性があります。

ここは大きなリスクです。

効率化が進むほど、効率よく支援できない人が取り残される。

医療や介護で一番怖いのは、ここだと思います。

看護師にとっては、価値が上がるが負担も増える

看護師にとっての良い面は、賃上げの対象になっていることです。

病院でも、クリニックでも、訪問看護でも、看護師の処遇改善は今回の改定の大きな柱です。

また、看護の必要性を説明できる看護師の価値は上がります。

ただ処置をするだけではなく、患者さんや利用者の状態を見て、判断し、記録し、医師や家族に説明できる看護師は、今後さらに重要になります。

しかし、悪い面もあります。

賃上げがあっても、業務量と見合っているとは限りません。

病院では、退院支援、多職種連携、記録が増える。
クリニックでは、患者説明、生活習慣病管理、連携業務が増える。
訪問看護では、計画、記録、評価、家族対応がより重くなる。

つまり、看護師の価値は上がる。
でも、説明責任も重くなる。

これは単なるスキルアップの話ではありません。

現場に余裕がないまま説明責任だけが重くなれば、看護師はさらに疲弊します。

「大事な仕事だから頑張って」では済みません。

必要な看護を説明しろと言うなら、説明できる時間と体制も必要です。

ここが整わないまま改定だけが進むと、現場はさらに苦しくなります。

賃上げはありがたい。
しかし、増える業務量と責任に対して少なければ、現場からは「負担が増えただけ」に見えます。

これは、看護師の不満というより、制度設計上の問題です。

処遇改善と言うなら、賃金だけでなく、業務量、人員配置、記録負担、安全に働ける体制まで一緒に見なければいけません。

最後に

今回の診療報酬改定は、高市政権の方針と合っている部分があります。

赤字の医療機関や介護施設を支える。
賃上げを進める。
物価高に対応する。
地域で必要な医療や看護を残す。

ここは一致しています。

しかし、現場とのギャップもあります。

支援はある。
でも、人が急に増えるわけではない。

報酬は上がる。
でも、業務量が減るわけではない。

必要な医療や看護は評価される。
でも、その必要性を説明できなければ厳しく見られる。

医療や介護には、数字だけでは測れない時間があります。

不安を聞く時間。
家族の迷いを受け止める時間。
認知症の人が落ち着くまで待つ時間。
看取りを支える時間。
関係を作る時間。

これらは現場では必要です。

しかし、これからはその必要性を記録と言葉で説明する力が求められます。

さらに今回の改定で問われるのは、賃上げをしたかどうかだけではありません。

その賃上げが、増える仕事に見合っているのか。
増える責任に見合っているのか。
増える記録に見合っているのか。
増える家族対応に見合っているのか。
増える地域連携に見合っているのか。

ここが問われます。

看護師の仕事は、もともと処置だけではありません。

そこにさらに説明責任や記録負担が積み上がるなら、単なる賃上げだけでは足りません。

必要なのは、給料を少し上げて終わりではなく、業務そのものを見直すことです。

今回の改定は、医療や介護にとって「助かった改定」です。

しかし、看護師にとっては「楽になる改定」ではありません。

むしろ、今まで以上に問われる改定です。

本当に必要な看護なのか。
それを説明できるのか。
安全に続けられるのか。
看護師に無理を押しつけていないか。
賃上げ分と、増える業務量は本当に見合っているのか。

ここが、今後さらに重要になります。

高市政権の現場支援は、確かに必要です。

ただし、現場支援というなら、お金だけでは足りません。

必要なのは、看護師に仕事を積み増すことではありません。

看護師が必要な看護を安全に続けられる仕組みです。

【広告】今の職場の負担が増えると感じたら

今回の改定で、看護師の仕事は「楽になる」というより、記録、説明責任、連携、家族対応まで含めて、より重くなる可能性があります。

今の職場で人員配置や業務量に不安がある場合は、すぐに応募するのではなく、他の職場の夜勤体制、残業実態、記録負担、医療依存度を比較しておくことも大切です。

そこまで整わなければ、今回の改定は現場にとって「支援」ではなく、負担の名前を変えたものになってしまうと思います。

参考資料

首相官邸「第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説」

厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について 全体概要版」

厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」

厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について 訪問看護ステーション向け」

この記事を書いた人
医療・介護しごと研究所 編集部

医療介護ラボ

看護師資格あり。
現在は介護施設側で、現場と運営の両方を見る立場にいます。

このブログでは、ホスピス型住宅・ナーシングホーム・介護施設の求人について、
公開情報をもとに、応募前に確認したい点を整理しています。

夜勤人数、医療依存度、看取り、教育体制など、
求人票だけでは見えにくい部分を中心に扱います。

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